「早く売って現金にしたい兄」と「思い出があるから残したい弟」。親から相続した実家を兄弟の共有名義にした後、売るかどうかで意見が分かれ、話が止まってしまうことがあります。
共有名義の不動産がこじれやすいのは、民法で共有物全体を売るには共有者全員の同意が必要とされているからです[1]。持分が9割あっても、1人が反対すれば建物と土地を丸ごと売ることはできません。
この記事では、共有名義の実家を売るための4つの解決ルートと、2023年4月施行の改正民法のポイント、名義を動かすときの税金の注意点を整理します。親子ナビ編集部は弁護士・司法書士・税理士ではありません。実際の手続きは必ず専門家に相談してください。
なぜ共有名義の実家は売りにくいのか
共有物全体を売るには、持分の大小にかかわらず共有者全員の同意が必要だからです。
一方、共有物の管理に関する事項は、持分の価格の過半数で決められます(第252条第1項)。ただし、賃貸に出す場合に過半数で決められるのは、建物なら3年以内など、一定の期間を超えない賃貸借に限られます(第252条第4項)[1]。「過半数を持っていれば売れる」わけではない点に注意しましょう。
共有名義になりやすい3つのパターン
- 兄弟で法定相続分どおりに相続した:遺産分割をせずに、とりあえず共有で登記したまま年月がたつケース
- 親の生前から親子の共有だった:親が亡くなると、親の持分が配偶者や他の兄弟に相続され、権利関係が複雑になる
- 祖父母の代から名義が変わっていない:相続が重なり(数次相続)、いとこや甥・姪まで含めて共有者が増えてしまう
共有のまま放置すると、共有者が亡くなるたびにその相続人へ持分が分かれ、共有者の数が増えていきます。人数が増えるほど、全員の同意を得ることは難しくなります。
2023年4月の民法改正で変わったこと
共有の不動産が動かせなくなる問題に対応するため、2023年(令和5年)4月1日に改正民法が施行されました[2]。法務省の資料などから、共有名義の実家に関わる主な点をまとめます。
| 改正の内容 | 条文 | ポイント |
|---|---|---|
| 所在が分からない共有者がいる場合の変更 | 第251条第2項 | 裁判所の決定を得て、その人以外の共有者全員の同意で変更できる |
| 賛否を明らかにしない共有者がいる場合の管理 | 第252条第2項 | 催告しても答えない人を除いた過半数で、管理に関する事項を決められる |
| 共有物を使う共有者の対価の償還 | 第249条第2項 | 別の合意がない限り、自己の持分を超える使用の対価を償還する義務を負う |
| 裁判による共有物分割の方法 | 第258条 | 賠償分割(代金を払って持分を取得する方法)を明記し、競売はそれができない場合などに |
| 所在等不明共有者の持分の取得 | 第262条の2 | 裁判所の決定で、所在が分からない共有者の持分を取得できる |
| 所在等不明共有者の持分の譲渡 | 第262条の3 | 裁判所の決定で、所在が分からない共有者の持分を含めて不動産全体を第三者に譲渡できる |
所在が分からない共有者の持分が相続財産に属する場合(遺産分割をすべき場合)は、第262条の2・第262条の3の手続きは、相続開始から10年を経過していないと使えません[1]。
4つの解決ルートの比べ方
解決ルートは「全員で売る」「自分の持分だけ売る」「共有物分割請求」「持分を1人に集約」の4つです。共有者との関係と、どれだけ急ぐかで選びます。
| 比べる項目 | 全員の同意で売る | 自分の持分だけ売る | 共有物分割請求 | 持分を1人に集約 |
|---|---|---|---|---|
| ほかの共有者の同意 | 全員の同意が必要 | 不要 | 不要(裁判所に請求) | 相手との合意が必要 |
| 価格 | 相場に近い価格を目指せる | 大きく下がりやすい | 競売になると下がりやすい | 売買・交換・贈与の条件による |
| 向いている状況 | 関係が良好で、全員が売ることに賛成 | 同意が得られない、連絡が取れない | 話し合いがまとまらない | 住み続けたい人と現金がほしい人に分かれている |
| 注意点 | 価格や費用の分担で意見が割れやすい | 買い手が持分を扱う業者などに限られる | 時間と費用がかかる。遺産共有は原則として遺産分割の手続きで | 譲渡所得税・贈与税などの税金 |
解決ルート1:全員の同意で売る
共有者の関係が良好で、全員が売ることに賛成しているなら、最もシンプルで、相場に近い価格を目指せる方法です。通常の不動産売却と同じように、不動産会社に仲介を依頼します。
全員で売るときの流れ
共有者全員で売る意思を確認する
電話やメッセージだけでなく、書面やメモに残します。
相続登記がまだなら先に済ませる
不動産会社に査定を依頼する
複数の会社に依頼して比べます。
媒介契約を結ぶ
共有者全員の署名・押印が必要です。
売却活動
窓口になる代表者を1人決めておくと、やり取りがスムーズです。
売買契約・決済
共有者全員が立ち会うか、委任状を用意します。
売却代金を持分に応じて分ける
振込先や分け方を事前に決めておきます。
確定申告
譲渡所得が出た場合は、共有者がそれぞれ申告します。
相続登記は2024年4月1日から義務になり、相続で不動産を取得したことを知った日から3年以内に申請が必要です。正当な理由なく怠ると、10万円以下の過料の対象になります。2024年4月1日より前の相続でも、2027年3月31日までに登記が必要です[3]。
つまずきやすいポイント
- 売り出し価格で意見が割れる:「もっと高く売れるはず」「早く売りたい」
- 売る前の片付けや修繕の費用を誰が出すか
- 直前になって1人が「やはり売りたくない」と言い出す
- 共有者の配偶者が意見を出し、話し合いがやり直しになる
話し合いが感情的になってきたら、不動産会社の担当者や司法書士など第三者を交えて、売却のスケジュールと分け方を書面にまとめると、合意を進めやすくなります。
共有者全員の同意がそろい、通常の売却を進める段階では、仲介会社の査定を比べておくと売り出し価格を決めやすくなります(ミライアスで売却査定を申し込む)。
解決ルート2:自分の持分だけを売る
「兄弟が売却に強く反対している」「何年も連絡が取れない」など、全員の同意が得られない場合の選択肢が、自分の持分だけを売る方法です。物件全体は1人では売れませんが、自分の持分は他の共有者の同意なしに売ることができます。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| メリット | 他の共有者の同意なしで現金化でき、話し合いから離れられる |
| デメリット | 価格が大きく下がりやすい。他の共有者との関係に影響することがある |
| 主な買い手 | 共有持分を扱う買取業者など(一般の個人にはほぼ売れない) |
| 準備する主な書類 | 登記事項証明書、固定資産評価証明書、本人確認書類、印鑑証明書など |
価格が下がる理由
持分を買い取った業者は、その後ほかの共有者と交渉して残りの持分を買い取るか、共有物分割の手続きを取ることになります。
その手間や時間、費用の負担を見込んで価格を決めるため、持分の割合から単純に計算した金額より低くなるのが一般的です。
解決ルート3:共有物分割請求
話し合いがまとまらず、持分だけを売るのも避けたい場合は、裁判所に共有物の分割を請求できます(民法第258条)[1]。裁判所が命じる分割の方法は次のとおりです。
- 現物分割:土地を分筆するなどして、物そのものを分ける。建物がある場合は難しいことが多い
- 賠償分割:一部の共有者が他の共有者に代金を払い、持分を取得する
- 競売:上の方法で分割できないときや、分割によって価格が大きく下がるおそれがあるときに、競売して代金を分ける
相続したばかりの共有には注意
遺産分割の前の共有(遺産共有)の場合、相続人の間で遺産分割をすべきときは、原則として共有物分割請求はできません。遺産分割の協議や家庭裁判所の調停・審判で解決します(第258条の2第1項、第907条)。
相続開始から10年を経過した後は、一定の場合に共有物分割の手続きで解決できるようになりました(第258条の2第2項)[1]。
裁判の手続きには時間も費用もかかります。弁護士費用の目安は事務所によって異なるので、事前に見積もりを確認しましょう。収入などが一定の基準以下であれば、法テラス(日本司法支援センター)の無料法律相談を利用できる場合があります[11]。
解決ルート4:持分を1人に集約する
4つめは、共有者の間で持分を売買・交換・贈与して、1人の単独名義にまとめる方法です。「兄は住み続けたい」「弟は現金がほしい」のように希望がはっきり分かれている場合に向いています。単独名義になれば、その後の売却や建て替えは1人の判断でできます。
集約する3つの方法と税金
| 方法 | 主な税金 | 注意点 |
|---|---|---|
| 持分の売買 | 売った人に譲渡所得税、買った人に不動産取得税・登録免許税 | 時価より著しく低い価格だと、差額が贈与とみなされることがある[6] |
| 持分の交換 | 要件を満たせば「固定資産の交換の特例」で譲渡がなかったものとされる | 同じ種類の資産同士、1年以上所有、時価の差が20%以内などの要件がある[7] |
| 持分の贈与 | もらった人に贈与税 | 兄弟間は一般税率。相続時精算課税は使えない[5] |
兄弟間の贈与は税金が高くなりやすい
国税庁のタックスアンサーNo.4408によると、兄弟間の贈与には一般税率が使われます[4]。仮の条件として、評価額1,000万円分の持分を兄弟に贈与し、1年間にほかの贈与がない場合で計算すると、次のようになります。
- 基礎控除後の課税価格:1,000万円 − 110万円 = 890万円
- 贈与税額:890万円 × 40% − 125万円 = 231万円
相続時精算課税(2,500万円の特別控除など)は、原則として60歳以上の父母・祖父母などから18歳以上の子・孫などへの贈与に使える制度で、兄弟間の贈与には使えません[5]。
「兄弟だから無償で名義を移せばいい」と考えると、思わぬ贈与税がかかることがあります。売買・交換・贈与のどれが良いかは、物件の評価額や家族の状況で変わるので、名義を動かす前に税理士に試算してもらいましょう。
共有名義のまま放置するリスク
放置すると、税金の負担が続き、共有者が増え、いざというときに動けなくなります。
1. 固定資産税の負担が続く
誰も住んでいなくても、固定資産税は毎年かかります(標準税率1.4%)。地方税法第10条の2により、共有物の税金は共有者が連帯して納める義務を負うため、1人が払わなければ、ほかの共有者に請求が来ることがあります[9]。
2. 相続が重なり、共有者が増える
共有者が亡くなると、その持分は配偶者や子に相続され、共有者が増えていきます。人数が増えるほど、話し合いは難しくなります。
3. 空き家として行政の指導の対象になる
2023年12月施行の改正空家法では、放置すれば特定空家になるおそれのある空き家を「管理不全空家」とし、市区町村が指導・勧告できるようになりました[10]。
勧告を受けると、固定資産税の住宅用地特例(税の計算のもとになる額を1/6などに減らす特例)が解除され、土地の税負担が増えます。特定空家になると、命令や代執行の対象にもなります。
4. 相続登記をしないと過料の対象になる
相続登記は2024年4月1日から義務になりました。正当な理由なく申請しないと、10万円以下の過料の対象になります[3]。
5. 必要なときに動けない
共有名義のまま年月がたつと、老後の資金が必要になったときや、修繕・建て替えが必要になったときに、すぐに動けません。話し合える相手がいるうちに、方向性を決めておくことが大切です。
相談先の選び方
状況によって、相談先が変わります。
| 相談先 | 得意な分野 | 相談するとよい状況 |
|---|---|---|
| 弁護士 | 共有物分割請求、遺産分割の調停、共有者間の交渉 | 話し合いがまとまらない、交渉を任せたい |
| 司法書士 | 相続登記、名義変更、遺産分割協議書の作成 | 登記が済んでいない、名義を変えたい |
| 税理士 | 譲渡所得税・贈与税・相続税の試算と申告 | 売買・交換・贈与のどれが良いか比べたい |
| 不動産会社 | 査定、売却活動 | 全員で売ることが決まった |
| 共有持分の買取業者 | 持分の買い取り | 同意が得られず、自分の持分だけ手放したい |
状況別の相談の順番
- 関係が良好で意見も一致している → 不動産会社へ
- 意見の違いはあるが話し合いはできる → 司法書士・税理士へ
- 話し合いがまとまらない、連絡が取れない → 弁護士へ
- 共有者が多く、面識もない → 弁護士、または共有持分の買取業者へ
費用を抑えたい場合は、法テラスや市区町村の無料法律相談も活用できます。


