親が亡くなったあと、空き家になった実家をどう売るか。手続きは「名義を変える」「売り先を探す」「税金を申告する」の3つに大きく分かれ、それぞれに期限があります。
このページでは、相続した実家を売るまでの流れを7つのステップに分け、各ステップで必要な書類・費用・注意点を、法務省・国税庁・国土交通省の公開資料にもとづいて整理します。
税金や登記の判断は家ごとに変わります。最終的な判断は、司法書士・税理士・不動産会社(宅地建物取引士)に確認してください。
全体の流れと期限
相続した実家の売却は、おおむね次の順で進みます。
相続人と遺産の確認、遺産分割協議
相続登記
名義を亡くなった親から相続人へ変えます。
査定の依頼と不動産会社選び
媒介契約と売却活動
売買契約・決済・引渡し
譲渡所得の確定申告
売った年の翌年に申告します。
相続税の申告(必要な場合)
死亡を知った日の翌日から10か月以内です。
相続税の申告期限は売却より先に来ることが多いため、6と7の順番は家によって前後します。主な期限は次のとおりです。
相続した実家を売るときの主な期限
起点
亡くなったこと(相続の開始)を知った日
10か月以内
相続税の申告・納付(知った日の翌日から)[6]
3年以内
相続登記の申請(不動産の取得を知った日から)[1]
申告期限の翌日から3年
取得費加算の特例を使える売却の期限[4]
相続開始から3年を経過する日の属する年の12月31日
空き家の3,000万円特別控除を使える売却の期限(かつ2027年12月31日まで)[3]
起点は手続きごとに少しずつ違います。かっこ内の起点を確認してください。
うちの期限を計算する売るかどうかを決める前に、先に価格の目安を知りたい場合は、不動産会社の査定を申し込む方法もあります(ミライアスで売却査定を申し込む)。査定の種類と比べ方は、ステップ3で説明します。
ステップ1 相続人と遺産を確認し、分け方を決める
売却の前に、誰が実家を相続するのかを決めなければなりません。遺言書がなければ、相続人全員で遺産分割協議をして、実家を誰が取得するかを決めます。
相続人の範囲は戸籍で確認します。亡くなった親の出生から死亡までの戸籍をそろえ、相続人を確定させます。
分け方には、主に次の3つがあります。
- 単独で相続してから売る:相続人の1人が実家を取得し、売却代金のうち他の相続人の取り分を代償金として支払う方法です。売却の手続きを1人で進められます。
- 共有で相続してから売る:相続人全員の共有名義にする方法です。売却には共有者全員の同意と書類が必要になり、1人でも反対すると売れません。
- 換価分割:売却代金を分けることを協議書に書き、代表者の名義で売る方法です。協議書の書き方によって税金の扱いが変わるため、税理士に確認してから進めます。
ステップ2 相続登記をする(2024年4月から義務)
実家の名義が亡くなった親のままでは売れません。まず相続人の名義に変える相続登記をします。
遺産分割がまとまらず期限に間に合わない場合は、自分が相続人であることを申し出る「相続人申告登記」で義務を果たす方法もあります[1]。ただし、これは名義を変える登記ではないため、売却するには最終的に相続登記が必要です。
また、2026年4月1日からは、登記された住所・氏名が変わったときに2年以内に変更登記をする義務も始まりました(5万円以下の過料の対象)[2]。相続人が引っ越した場合なども関係します。
相続登記で主に必要な書類
- 亡くなった親の出生から死亡までの戸籍謄本(除籍・改製原戸籍を含む)
- 亡くなった親の住民票の除票(または戸籍の附票)
- 相続人全員の戸籍謄本
- 遺産分割協議書と相続人全員の印鑑証明書(協議で分けた場合)
- 実家を取得する人の住民票
- 固定資産評価証明書(登録免許税の計算に使います)
登録免許税は、相続による所有権移転の場合、固定資産税評価額の0.4%です[9]。司法書士に依頼する場合は別途報酬がかかります。報酬は事務所ごとに異なるため、見積もりを取って確認してください。評価額が分かれば、相続登記の費用 計算で登録免許税を計算できます。
戸籍の収集は、親が本籍地を何度か移していると時間がかかります。法務局の「法定相続情報証明制度」を使うと、戸籍の束の代わりに一覧図の写しを無料で交付してもらえ、銀行や税務署の手続きにも使えます[11]。
ステップ3 査定を依頼し、不動産会社を選ぶ
登記の見通しが立ったら、並行して査定を依頼します。査定額は会社によって差が出ることがあるため、1社だけで決めず複数社に依頼し、価格の根拠(近隣の成約事例、建物の評価、売れるまでの期間の見込み)を説明してもらいましょう。
極端に高い査定額は、媒介契約を取るための数字である場合もあります。
査定の種類
- 机上査定(簡易査定):住所や面積などの情報から概算を出します。早く相場感をつかみたいときに向いています。
- 訪問査定:現地で建物の状態や周辺環境を見て価格を出します。実際に売り出す前には訪問査定を受けるのが一般的です。
売り方の選択肢
| 比べる項目 | 仲介 | 買取 | 訳あり物件の専門買取 |
|---|---|---|---|
| 内容 | 不動産会社が買主を探す | 不動産会社が直接買い取る | 再建築不可・共有持分・借地権などを扱う会社が買い取る |
| 向いているケース | 時間をかけても相場に近い価格で売りたい | 早く現金化したい・残置物が多い・築年数が古い | 一般の仲介では買い手が見つかりにくい |
買取は仲介より価格が下がるのが一般的ですが、売れるまでの期間や内覧対応の手間がかかりません。どちらが合うかは、査定を比べてから決めても遅くありません。買取と仲介の違いと、買取業者を選ぶときの確認点は「空き家の買取と仲介の違い」で比べています。
ステップ4 媒介契約を結び、売却活動をする
仲介で売る場合は、不動産会社と媒介契約を結びます。種類は3つあり、宅地建物取引業法で決まりが異なります[10]。
| 比べる項目 | 一般媒介 | 専任媒介 | 専属専任媒介 |
|---|---|---|---|
| 複数社との契約 | できる | できない | できない |
| 自分で見つけた買主との取引 | できる | できる | できない |
| レインズへの登録 | 義務なし | 契約から7日以内(休業日を除く) | 契約から5日以内(休業日を除く) |
| 売主への業務報告 | 義務なし | 2週間に1回以上 | 1週間に1回以上 |
| 契約期間 | 法定の上限なし | 3か月以内 | 3か月以内 |
レインズは不動産会社が物件情報を共有するシステムです。専任系の契約では登録が義務になるため、他の会社を通じた買主にも情報が届きます。売り出してから反響が少ない場合は、価格の見直しや媒介契約の切り替えを検討します。
内覧の前にしておくこと
- 家財の整理:家具や生活用品が残っていると、買主から処分費用分の値引きを求められることがあります。売却を急がない場合は先に片付けを進めます。遺品の整理については遺品整理の費用相場、貴金属が出てきた場合はジュエリーの相続と買取もご覧ください。
- 電気・水道:内覧の期間中だけでも使えるようにしておくと、照明や水回りを確認してもらえます。
- 庭木・雑草の手入れ:外観は第一印象を左右します。近隣への迷惑防止にもなります。
空き家のまま管理をしないでいると、改正空家法(2023年12月13日施行)で新設された「管理不全空家」として市区町村から指導・勧告を受けることがあります[8]。
勧告を受けると、固定資産税の住宅用地の特例が外れ、土地の税額が上がる可能性があります。売却まで時間がかかりそうな場合は、換気や郵便物の整理など最低限の管理を続けましょう。
ステップ5 売買契約・決済・引渡し
買主が決まったら、売買契約を結びます。一般的には契約時に手付金を受け取り、後日、残代金の決済と所有権移転登記、鍵の引渡しをします。
仲介手数料の上限
仲介手数料は宅地建物取引業法にもとづく告示で上限が決まっています。売買価格が400万円を超える場合の上限は「売買価格×3%+6万円」(税抜)です[7]。
ステップ6 譲渡所得の確定申告をする
実家を売って利益(譲渡所得)が出た場合は、売った年の翌年に確定申告をします。
譲渡所得は「売却価格 −(取得費+譲渡費用)− 特別控除」で計算します。相続した不動産の取得費は、親が買ったときの価格を引き継ぎます。
購入時の売買契約書が見つからない場合は、売却価格をもとにした概算の取得費を使うことになり、税額が大きくなりがちです。親の書類を整理するときは、購入時の契約書や領収書を探しておきましょう。所有期間も親の取得日から数えます。
空き家の3,000万円特別控除(被相続人居住用財産の特例)
国税庁によると、一定の要件を満たす空き家とその敷地を売った場合、譲渡所得から最高3,000万円を控除できます[3]。主な要件は次のとおりです。
- 2027年12月31日までの売却であること
- 相続開始から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売ること
- 1981年(昭和56年)5月31日以前に建築された家屋であること(マンションなど区分所有建物は対象外)
- 相続の直前に親が1人で住んでいたこと(要介護認定などを受けて老人ホームに入っていた場合も、一定の条件で対象)
- 相続から売却まで、事業・貸付・居住に使っていないこと
- 売却代金が1億円以下であること
- 耐震基準に適合させてから売るか、取り壊して更地で売ること。2024年1月1日以後の売却では、売った年の翌年2月15日までに買主が耐震改修や取壊しをした場合も対象になります
2024年1月1日以後の売却で、家と敷地を相続した相続人が3人以上いる場合は、控除の上限が1人あたり2,000万円になります[3]。要件に当てはまりそうかは、空き家の3,000万円特別控除 判定チェックで質問に答えて確認できます。
取得費加算の特例
相続税を納めた人が、相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日までに相続財産を売った場合は、納めた相続税のうち一定額を取得費に加えられます[4]。
空き家の3,000万円特別控除とどちらが有利かは、相続税の額や売却益によって変わるため、税理士に試算してもらうと安心です。いずれの特例も、確定申告をしなければ適用されません。税額が0円になる見込みでも申告が必要です。
ステップ7 相続税の申告(必要な場合)
相続税は、遺産の総額が基礎控除額を超える場合に申告が必要です。国税庁によると、基礎控除額は「3,000万円+600万円×法定相続人の数」です。たとえば相続人が配偶者と子2人の3人なら4,800万円です[5]。
申告と納付の期限は、亡くなったことを知った日の翌日から10か月以内です[6]。配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例は、税額が0円になる場合でも申告が必要です。相続税の計算方法は相続税の計算方法と早見表にまとめています。
売れない・売りにくいときの選択肢
| 選択肢 | 内容 |
|---|---|
| 不動産会社の買取 | 仲介より価格は下がるのが一般的ですが、早く売れます |
| 訳あり物件の専門買取 | 再建築不可・共有持分・借地権など、一般の仲介で扱いにくい物件を扱います |
| 借地権の専門窓口 | 地主との交渉や承諾が必要な借地権付きの家を扱います |
| 空き家バンク | 自治体が運営する登録制度です。地元で買い手を探す場合に使えます |
| 解体して土地で売る | 解体費用がかかります。空き家特例の要件(取壊し)との関係も確認します |
| 相続土地国庫帰属制度 | 2023年4月27日開始。相続した土地を国に引き取ってもらう制度です。建物がある土地は対象外で、審査手数料(1筆14,000円)と原則20万円の負担金がかかります |
相続土地国庫帰属制度の内容は、法務省の案内で確認できます[12]。親が実家に住み続けたまま現金化したい場合は、リースバックという方法もあります。
それぞれの進め方は、次の記事で整理しています。
- 古い家・遠方の空き家を早く手放したい:空き家の買取と仲介の違い
- 再建築不可・事故物件・共有名義など:訳あり物件の売却方法
- 借りた土地に建っている家(借地権):借地権の売却は地主の承諾が必要
借地権や訳あり物件は、一般の仲介会社では扱いを断られることもあります。複数の窓口で査定を取り、条件を比べてから決めましょう。再建築不可・共有持分などの訳あり不動産は、専門の査定窓口もあります。
ワケガイで訳あり不動産の査定を申し込むよくあるつまずき
- 査定を1社だけで決めてしまう:価格の根拠を比べられず、相場より安く売ってしまうことがあります。
- 相続登記を後回しにする:買主が見つかっても登記が終わるまで決済できません。遺産分割協議と並行して進めます。
- 空き家特例の要件を確認せずに売る:耐震改修・取壊しの要否や、売却期限を事前に税理士や不動産会社に確認します。
- 取得費が分からない:概算の取得費になると税額が増えます。親の書類から購入時の資料を探します。
- 共有名義のまま進める:共有者全員の同意と書類が必要です。誰が窓口になるかを先に決めておきます。
公的な相談先
- 法務局:相続登記の手続案内(予約制)
- 税務署・電話相談センター:相続税・譲渡所得の一般的な相談
- 市区町村の無料法律相談:弁護士による相談(自治体ごとに日程が異なります)
- 自治体の空き家相談窓口・空き家バンク:空き家の管理や活用の相談


