親の老後資金や施設の入居一時金が必要になったとき、「実家は手放したくないが、まとまったお金が要る」という場面があります。その選択肢の1つが、自宅を売却して賃料を払いながら住み続ける「リースバック」です。
一方で、国土交通省には、売却価格や賃料、契約の種類をよく理解しないまま契約してトラブルになった事例が寄せられています。同省は2022年6月に「住宅のリースバックに関するガイドブック」を公表しました[2]。
このページでは、そのガイドブックの内容を中心に、仕組みと注意点を整理します。
リースバックの仕組み
国土交通省のガイドブックは、リースバックを「住宅を売却して現金を得て、売却後は毎月賃料を支払うことで、住んでいた住宅に引き続き住むというサービス」と説明しています[1]。「セール・アンド・リースバック」と呼ばれることもあります。
査定を依頼する
売却価格と賃貸の条件(賃料・契約期間・契約の種類)の提示を受けます。
売買契約と賃貸借契約を結ぶ
自宅の売買契約と、同じ家の賃貸借契約を結びます。
売却代金を受け取る
家の所有者は事業者に変わります。
賃料を払って住み続ける
毎月の賃料を払います。
期間満了・再契約・買戻し
契約の内容に応じて、期間満了で退去する、再契約する、または買い戻します。
メリット・デメリット
| メリット | デメリット・注意点 |
|---|---|
| 住み慣れた家に住み続けながら、一括で資金を受け取れる | 家が自分の持ち物ではなくなる。設備の変更などには事業者の承諾が必要 |
| 引っ越しをしなくてよい | 毎月の賃料がかかる。住む年数が長いと、賃料の合計が売却額を上回ることもある |
| 契約条件によっては、固定資産税や建物の修繕費を負担しなくてよくなる | 定期借家契約だと、期間満了で退去しなければならない場合がある |
| 不動産を現金に換えるため、将来の相続で分けやすくなる | 買戻しは当然の権利ではなく、条件や価格によっては買い戻せない |
| 施設の入居待ちの間など、住み替えまでの「つなぎ」に使える | 売却価格・賃料は事業者ごとに異なり、相場から大きく外れた条件の例もある |
国土交通省が紹介しているトラブルの例
ガイドブックには、関係者からの聞き取りをもとにした次のようなトラブル例が載っています(要約)[1]。
- 強引な勧誘で契約し、解約を申し出たら高額な違約金を求められた:繰り返しの電話や訪問で契約し、後日キャンセルを申し出たところ違約金を請求された例です。
- 賃料の合計が数年で売却価格を超えることに後から気づいた:契約前に「受け取る金額」と「払い続ける賃料」を比べていなかった例です。
- 市場での取引価格より著しく低い代金で売ってしまった:価格の根拠について十分な説明がないまま契約した例です。
- 住み続けられると思っていたが、再契約を断られた:契約が定期借家契約で、期間満了後の再契約が拒絶された例です。
不実の告知など不当な勧誘があった場合は、消費者契約法で取り消せる場合があります。困ったときは消費生活センターに相談できます。
契約前に確認する7つのポイント
ガイドブックが示すポイントを、確認の順に整理しました[1]。
1. 他の方法とも比べる
自宅に住みながら資金を確保する方法には、リースバックのほかに「リバースモーゲージなどの融資」や「通常の売却で、引渡し時期を一定期間後にしてもらう方法」があります。ライフプランに合うのはどれかを比べてから選びます。
2. 契約を急がない
その場でサインや押印を求められても応じず、家族と相談してから決めると伝えましょう。契約したら、売買契約書を必ず受け取ります。
3. 賃料を払い続けられるか計算する
「売却で受け取る金額」と「住み続ける年数分の賃料の合計」を自分で計算して比べます。途中で賃料が上がる可能性があるか(賃料改定の条項)も確認します。
4. 売却価格を複数の事業者に聞く
提示された価格が相場から大きく外れていないか、根拠を説明してもらいます。通常の売却で引渡しを遅らせる方法もあるため、ほかの不動産会社にも相場について意見を聞きましょう。
5. 買戻しの条件を契約書で確認する
買戻しは、事業者が「条件次第でもう一度売る」という約束にすぎません。「いつまでに」「いくらで」買い戻せるかが契約書に具体的に書かれているか、その金額を自分が払えるかを確認します。
6. 住み続けられる期間を確認する
賃貸借契約には「普通借家契約」と「定期借家契約」があります。定期借家契約は期間の満了で終わり、更新がありません(借地借家法38条)[5]。再契約には貸主の合意が必要です。
事業者が家を第三者に売り、貸主が変わることもあります。契約の種類・期間・再契約の条件を確認しましょう。
7. 修繕と原状回復の負担を確認する
設備が壊れたときに直すのは誰か、自分で修繕してよいか、退去時や住んでいる人が亡くなったときに原状回復費用を誰が負担するかを確認します。
リバースモーゲージ・通常売却との違い
| 比べる項目 | リースバック | リバースモーゲージ | 通常の売却(引渡し猶予) |
|---|---|---|---|
| 家の所有者 | 事業者に移る | 自分のまま(自宅を担保に入れる) | 買主に移る |
| 受け取るお金 | 売却代金(一括) | 融資(借入) | 売却代金 |
| 毎月の負担 | 賃料 | 利息など(商品による) | 引渡しまでは自己負担の維持費 |
| 住める期間 | 賃貸借契約の内容による | 契約期間中(商品による) | 引渡し日まで |
| 相続のとき | 家は残らない | 家を処分するなどして返済する | 家は残らない |
リバースモーゲージは金融機関の商品で、対象となる地域や物件、年齢などの条件が商品ごとに決まっています。取扱いのある金融機関に条件を確認してください。
リースバック事業者の提示額だけで判断せず、通常の売却ならいくらで売れそうかを知っておくと、条件が妥当かを判断しやすくなります。国土交通省のガイドブックも、ほかの宅地建物取引業者に相場の意見を聞くことを勧めています[1]。
向いているケース・慎重に考えたいケース
向いている可能性があるケース
- 施設の入居が決まるまで今の家で暮らし、入居時の一時金を先に用意したい
- 建て替えや住み替えまでの決まった期間だけ住み続けたい
- 将来の相続で、実家を現金で分けやすくしておきたい
ガイドブックの利用例でも、高齢者施設の入居待ちの間に2年間の定期借家契約(借主から中途解約できる条項付き)で住み続けた例や、建て替えが終わるまでの1年間住み続けた例が紹介されています[1]。
慎重に考えたいケース
- 実家を子や孫に残したい(所有権が事業者に移ります)
- 年金だけで賃料を払い続けられるか見通しが立たない
- 長く住み続けたい(契約の種類と賃料の合計を必ず確認)
親のリースバックを家族で検討するときの注意
リースバックの契約をするのは家の所有者本人(親)です。親の判断能力が低下していると、売買契約自体ができません。
認知症などで判断能力が十分でない場合は、成年後見制度を使い、居住用不動産の売却には家庭裁判所の許可が必要になります。元気なうちに財産管理の方法を決めておく方法としては、家族信託もあります。費用と手続きは成年後見人の費用と比べてみてください。
将来の相続人になる家族には、契約前に内容を共有しておくと、後のトラブルを防げます。
賃料の合計と売却額を比べる計算例(仮の数字)
国土交通省のガイドブックは、契約前に「売却で受け取る金額」と「数年かけて賃料として払う金額」を自分で計算して比べるよう勧めています[1]。ここでは、仕組みを理解するための仮の数字で計算してみます(実際の価格や賃料の相場を示すものではありません)。
計算例(仮の数字)の条件:売却代金1,500万円、賃料月10万円、賃料の改定なし
| 住み続けた年数 | 払った賃料の合計 | 売却代金から賃料を引いた残り |
|---|---|---|
| 3年 | 360万円 | 1,140万円 |
| 5年 | 600万円 | 900万円 |
| 10年 | 1,200万円 | 300万円 |
| 12年6か月 | 1,500万円 | 0円 |
この条件では、12年半住み続けると、払った賃料の合計が売却代金と同じになります。実際には、売却代金からローンの返済や税金、引っ越し・施設の費用なども出ていきます。
親の年齢や健康状態、年金収入と合わせて「何年住む予定か」「その間の生活費は足りるか」を家族で計算しておきましょう。賃料が途中で上がる可能性がある場合は、上がった後の金額でも計算しておくと安心です。
相続税への影響も確認する
リースバックをすると、親の財産は「自宅」から「現金(売却代金の残り)」に変わります。相続税の計算では、この違いが影響することがあります。
国税庁によると、亡くなった人が住んでいた家の敷地を一定の親族が相続した場合、「小規模宅地等の特例」により、330㎡までの部分について土地の評価額を80%減らせる場合があります[4]。
リースバックで家を売った後は、親が亡くなった時点で自宅を所有していないため、この特例は使えません。現金は額面どおりに相続財産として計算されます。
遺産の総額が相続税の基礎控除額を超えそうな家庭では、リースバックの前に税理士に相続税への影響を確認しておくと安心です。相続税の計算方法は相続税の計算方法と早見表にまとめています。
家族で話し合っておきたいこと
- 目的:何のための資金か(施設の入居一時金、生活費、借入れの返済など)。目的によっては、通常の売却や融資の方が合う場合があります。
- 住む期間の見通し:いつまで今の家に住むつもりか。施設への住み替えを予定しているか。
- 賃料を払う人:親の年金で払えるか。子が援助する場合、いつまで続けられるか。
- 売却代金の管理:受け取った代金を誰が、どのように管理するか。親の判断能力が低下したときにどうするか。
- 実家への思い:兄弟の中に、将来実家を引き継ぎたい人がいないか。
話し合いの結果は簡単なメモに残し、契約に立ち会えない家族にも共有しておきましょう。
税金について
自宅を売って利益が出た場合は、譲渡所得として確定申告が必要です。住んでいる家を売った場合は、一定の要件を満たせば「マイホームを売ったときの3,000万円の特別控除」が使える場合があります[3]。
リースバックで売った後に同じ家に住み続ける場合も含め、要件に当てはまるかは税務署や税理士に確認してください。売却したときの税金と手取りの目安は、計算ツールで試算できます。
困ったときの相談先
- 消費生活センター:強引な勧誘や、解約・違約金のトラブル
- 複数の不動産会社:売却価格や賃料が相場から外れていないかの意見
- 税務署・税理士:売却したときの所得税や、将来の相続税への影響
- 地域包括支援センター:親の住まいや介護、財産管理の制度についての相談



