相続した実家を売ろうとしたら、不動産会社に「うちでは扱いが難しい」と言われた。そんなときは、物件が「訳あり物件」に当たっている可能性があります。
訳あり物件とは、法律上・物理的・心理的な理由で、一般の市場で売りにくい不動産をまとめて呼ぶ言葉です。法律上の定義はなく、不動産業界の慣用的な呼び方です。この記事では、訳あり物件を5つのタイプに分け、それぞれの法律上のポイントと売却のルートを整理します。
親子ナビ編集部は不動産・法律・税務の専門家ではありません。実際の判断は、宅地建物取引士・弁護士・税理士などの専門家に相談してください。
訳あり物件の5つのタイプ
訳あり物件は、事故物件・再建築不可・違法建築・借地権・共有名義の5つに分けると整理しやすくなります。
| 比べる項目 | 事故物件 | 再建築不可 | 違法建築・検査済証なし | 借地権 | 共有名義 |
|---|---|---|---|---|---|
| 主な原因 | 自殺・他殺、特殊清掃が必要だった孤独死など | 道路への接道義務を満たしていない(建築基準法第43条) | 完了検査を受けていない、建ぺい率・容積率の超過など | 土地が地主のもので、建物だけを持っている | 相続などで複数の人が持っている |
| 売りにくい理由 | 買主に告知が必要で、敬遠されやすい | 建て替えができず、融資を受けにくい | 融資を受けにくい | 売るには地主の承諾が必要 | 物件全体を売るには全員の同意が必要 |
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一つの物件が複数のタイプに当てはまることもあります(例:共有名義で、しかも再建築不可)。その場合は、いちばん解決が難しい問題を基準に、相談先と売り方を考えます。
タイプ1:事故物件
過去に物件内で人が亡くなった物件は、事情によって買主への告知が必要になります。国土交通省の「宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン」(令和3年10月)では、宅地建物取引業者の対応として、次のような考え方が示されています[1]。
- 告げなくてもよい(原則):老衰や病気による自然死、転倒や誤嚥などの日常生活の中での不慮の死
- ただし:長期間気づかれずに特殊清掃や大規模なリフォームが行われた場合は、自然死などでも告知の対象になりうる
- 賃貸の場合:上記以外の死が発生した場合などでも、おおむね3年が経過した後は、原則として借主に告げなくてもよい(事件性や社会的な影響が特に大きい事案は除く)
- 売買の場合:賃貸のような「おおむね3年」の目安は示されていない
- 期間や死因にかかわらず:買主・借主から尋ねられた場合や、知っておくべき特段の事情がある場合は告げる必要がある
判断に迷う場合は、依頼する不動産会社に「このケースは告知が必要か」を事前に確認しましょう。
事故物件は一般の仲介では買い手が見つかりにくく、価格も下がる傾向があります。訳あり物件を専門に扱う買取業者は、告知が必要な事情を前提に価格を提示するため、選択肢の一つになります。
タイプ2:再建築不可物件
建築基準法第43条では、建物の敷地は道路に2m以上接していなければならないと定めています(接道義務)[2]。ここでいう「道路」は、原則として幅員4m以上の、建築基準法上の道路です(第42条)。
この条件を満たさない土地では、今の建物を取り壊すと新しい建物を建てられません。これがいわゆる「再建築不可」です。
よくあるパターンは次のとおりです。
- 旗竿地で、道路につながる通路部分の幅が2m未満
- 前面の道が建築基準法上の道路に当たらない(ただの通路)
- 幅4m未満の道に面しているが、建築基準法上の道路として指定されていない
なお、幅4m未満の道でも、特定行政庁が指定した道は道路とみなされます(第42条第2項、いわゆる2項道路)。この場合は、道の中心から2m後退(セットバック)した線が道路との境界とみなされます[2]。
再建築不可でも検討できる方法
- 特定行政庁の許可:敷地の周囲に広い空地があるなど、国土交通省令の基準に合う場合は、特定行政庁が建築審査会の同意を得て許可することで、建築が認められることがあります(第43条第2項第2号)。まずは役所の建築指導の窓口に相談しましょう。
- 隣地との一体化:隣の土地を買う、または隣の所有者に売ることで、接道の条件を満たせる場合があります。隣の所有者にとっては敷地を広げられる機会になります。
- 訳あり物件の買取業者に売る:建て替えができない前提で買い取る業者があります。
リフォームにも制限がある
2025年4月から建築確認の制度が見直され、木造2階建てなどの「新2号建築物」は、大規模な修繕・模様替えにも建築確認・検査が必要になりました[3]。
接道義務を満たさない物件では、こうした工事が難しくなる場合があります。どこまでの工事ができるかは、建築士に確認しましょう。
タイプ3:違法建築・検査済証なし
建物が建築基準法に合っていないと、売り方が限られます。実務でよく問題になるのは次の3つです。
- 検査済証がない:建物の完成時に完了検査を受けていない
- 建ぺい率・容積率の超過:増築を重ねた結果、上限を超えている
- 用途の違反:その地域で認められていない用途で使っている
違法な状態の建物は、金融機関の融資を受けにくく、買い手が現金で買える人や買取業者に限られがちです。行政から是正を求められている場合は、売却の前に対応が必要になることもあります。
「既存不適格」とは別のもの
既存不適格とは、建てたときは法律に合っていたものの、その後の法改正で今の基準に合わなくなった建物のことで、違法建築ではありません。一方、建てたときから基準に違反していた場合は違法建築です。
登記簿や建築確認の書類の日付と、当時の基準を照らし合わせて判断します。
検査済証がない建物でも、建築士が現在の状態を調べ、建築基準法への適合状況を確認する方法があります。国土交通省は、建築士が既存の建物の適合状況を調査する手順をまとめた「既存建築物の現況調査ガイドライン」を公表しています[4]。調査の費用と、それによって売りやすくなる効果を比べて、建築士や不動産会社と相談しましょう。
タイプ4:借地権付きの建物
建物は自分のもので、土地は地主から借りている。これが借地権付きの建物です。借地権付きの建物を第三者に売るには、原則として地主の承諾が必要で、承諾料(名義書換料)を求められるのが一般的です。
借地権付きの建物の主な売り方は3つです。
- 第三者に売る:地主の承諾(または裁判所の許可)が必要
- 地主に買い取ってもらう:地主が土地と建物をまとめて持てるため、話がまとまる場合がある
- 借地権を扱う買取業者に売る:地主との交渉を含めて対応する業者もある
売り方ごとの違いと、地主が承諾しないときの裁判所の手続きは「借地権の売却は地主の承諾が必要|4つの売り方」で詳しく整理しています。
相続で地主と疎遠になっている、関係がこじれているといった場合は、第三者に間に入ってもらうと話を進めやすくなります。借地権付きの建物の査定を受け付けているサービスもあります(訳あり物件買取センターで借地権の査定を申し込む
)。
タイプ5:共有名義の物件
相続のときに遺産分割をせず、相続人の共有のまま登記すると、不動産は共有名義になります。物件全体を売ることは、民法第251条の「共有物の変更」に当たり、共有者全員の同意が必要です[6]。
解決の方法は主に次の3つです。
- 共有者全員の同意で売る:最もシンプルで、通常の売却と同じ価格を目指せる
- 自分の持分だけを売る:自分の持分は他の共有者の同意なしに売れる。ただし、買い手は持分を扱う買取業者などに限られ、価格は大きく下がりやすい
- 共有物分割請求:話し合いがまとまらないときは、裁判所に分割を求められる(民法第258条)
2023年4月施行の改正民法では、所在が分からない共有者がいる場合に、裁判所の手続きを経てその持分を取得したり、第三者に譲渡したりできる制度もできました(第262条の2・第262条の3)[6]。詳しくは兄弟と共有名義の実家を売るにはで説明しています。
一般の仲介と買取業者の比べ方
5つのタイプのどれでも、最終的には「一般の仲介で買い手を探す」か「買取業者に買い取ってもらう」かを選ぶことになります。
| 比べる項目 | 一般の仲介 | 訳あり物件の買取業者 |
|---|---|---|
| 売却価格 | 買い手が見つかれば相場に近い価格を目指せる | 相場より低くなるのが一般的 |
| 売れるまでの期間 | 長くかかる、または売れないこともある | 比較的早く決まりやすい |
| 仲介手数料 | かかる(法令で上限あり) | 業者が直接買う場合はかからない |
| 引き渡し後の責任 | 契約不適合責任を負うのが原則 | 免責とする契約が多い(契約書で確認) |
| 近所への知られやすさ | 広告を出すため知られやすい | 広告を出さずに進められる |
仲介手数料の上限は、国土交通大臣の告示で定められています。2024年7月からは、物件価格が800万円以下の「低廉な空家等」について、媒介に必要な費用を考慮して、30万円の1.1倍(33万円)まで受け取れる特例ができました[8]。
価格の安い空き家でも仲介を引き受けてもらいやすくするための見直しです。報酬額は、媒介契約を結ぶ前に説明を受け、合意することになっています。
「価格が下がっても、早く確実に手放したい」「近所に知られたくない」場合は買取業者、「時間がかかってもいいから高く売りたい」場合は一般の仲介が向いています。どちらの場合も、複数の会社に査定を依頼して比べましょう。
業者選びで確認したい5つのこと
訳あり物件を扱う業者は規模も対応もさまざまです。次の5点を確認しましょう。
- 対応エリア:全国対応か、特定の地域だけか。地方の物件は地元の業者の方が現地調査が早いこともあります。
- 査定の根拠:周辺の取引事例など、価格の根拠を説明してくれるか。現地を見ずに即答する査定は参考程度にとどめましょう。
- 告知への対応:事故物件の場合、告知の内容をどのように扱うか説明があるか。
- 契約不適合責任の扱い:引き渡し後に不具合が見つかった場合に、売主が責任を負うかどうか。
- 宅地建物取引業の免許:会社の所在地・代表者・免許番号が公開されているか。
宅地建物取引業の免許の有効期間は5年で[7]、更新を受けると免許番号のかっこ内の数字が増えていきます(例:「東京都知事(3)第○○号」)。数字が大きいほど更新を重ねていることの目安になります。免許の情報は、国土交通省の「建設業者・宅建業者等企業情報検索システム」で確認できます。
避けたい業者の特徴も押さえておきましょう。
- 物件を見ずに「今日決めれば○万円上乗せ」などと契約を急がせる
- 査定額の根拠を説明できない
- 会社の所在地・代表者・免許番号が分からない
売却時の税金と特例
不動産を売って利益(譲渡所得)が出ると、所得税・住民税がかかります。税率は、売った年の1月1日時点での所有期間で変わります。
| 区分 | 所有期間 | 税率 |
|---|---|---|
| 長期譲渡所得[10] | 5年を超える | 所得税15%・住民税5%(ほかに復興特別所得税) |
| 短期譲渡所得[11] | 5年以下 | 所得税30%・住民税9%(ほかに復興特別所得税) |
復興特別所得税は、所得税額の2.1%です。相続した不動産の所有期間は、亡くなった方が取得した時期を引き継いで判定します[12]。親が長く住んでいた実家なら、多くの場合は長期譲渡所得になります。
空き家の3,000万円特別控除
相続した実家を売る場合、「被相続人の居住用財産(空き家)に係る譲渡所得の特別控除の特例」が使える可能性があります。国税庁のタックスアンサーNo.3306(令和8年4月1日現在法令等)による主な要件は次のとおりです[9]。
- 1981年(昭和56年)5月31日以前に建築された家屋であること(区分所有建物登記がされている建物を除く)
- 相続の開始の直前に、亡くなった方が一人で住んでいたこと(老人ホームへの入所など一定の場合を含む)
- 相続の開始があった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売ること
- 2027年(令和9年)12月31日までに売ること
- 売却代金が1億円以下であること
- 売る家屋が耐震基準を満たすか、家屋を取り壊して更地で売ること
2024年(令和6年)1月1日以後の譲渡には、次の見直しがあります。
- 相続人が3人以上の場合、控除の上限は1人あたり2,000万円になります
- 売った後、買主が譲渡の翌年2月15日までに耐震改修をするか、家屋を取り壊した場合も、特例の対象になります
このほか、市区町村の確認書が必要になるなど、細かい要件があります。使えるかどうかは、税務署や税理士に確認してください。


