親が亡くなってから、見覚えのない会社からの請求書や督促状が届くことがあります。「これは自分が払わなければならないのか」「どう調べればよいのか」と迷ったときは、まず期限と調べ方を確認しましょう。
このページでは、親の借金が誰に引き継がれるのか、借金をどう調べるか、相続放棄・限定承認・単純承認のどれを選ぶか、連帯保証の注意点を整理します。相続放棄の具体的な手続きは相続放棄の流れと必要書類で詳しく説明しています。
親の借金は誰が引き継ぐのか
民法896条は、相続人は相続開始の時から、亡くなった人の財産に属した「一切の権利義務を承継する」と定めています[1]。
預貯金や実家などのプラスの財産だけでなく、借入金、カードの未払い、税金や家賃の滞納、保証債務などのマイナスの財産も、相続人に引き継がれます。
相続人になるのは、配偶者と、子・父母・兄弟姉妹のうち最も順位の高い人です。子が全員相続放棄をすると、亡くなった人の父母、さらに兄弟姉妹へと相続権が移り、借金の請求先も移っていきます。相続人の範囲は法定相続人の範囲と相続分で確認できます。
期限は3か月
相続人は、自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内に、単純承認・限定承認・相続放棄のどれかを選ばなければなりません(民法915条)[1]。何もしないまま3か月が過ぎると、借金も含めて相続する単純承認をしたものとみなされます(民法921条2号)。
亡くなった年に一定の所得があった場合は、所得税の準確定申告の期限もあります[9]。未納の税金も相続人に引き継がれます。
親の借金に関わる主な期限
起点
自分が相続人になったことを知った日
3か月以内
単純承認・限定承認・相続放棄のどれかを選ぶ(間に合わないときは期間の伸長を申し立てる)[1]
民法 第915条
翌日から4か月以内
亡くなった人の所得税の準確定申告と納税(一定の所得があった場合)[9]
何もしないまま3か月が過ぎると、単純承認したものとみなされます(民法921条2号)。
うちの期限を計算するステップ1 借金を調べる
請求書が届いている借金は、全体の一部かもしれません。複数の手がかりを組み合わせて調べます。
信用情報機関に開示を請求する
クレジットカード、カードローン、消費者金融、銀行のローンなどの利用状況は、信用情報機関に登録されています。日本には主に次の3つの機関があり、いずれも亡くなった人の情報について法定相続人などが開示を申し込めます。
| 機関 | 主な加盟会社 | 亡くなった人の開示を申し込める人 |
|---|---|---|
| CIC[5] | クレジットカード会社・信販会社など | 法定相続人 |
| JICC(日本信用情報機構)[6] | 消費者金融・信販会社など | 法定相続人、2親等以内の血族など |
| 全国銀行個人信用情報センター[7] | 銀行・信用金庫など | 法定相続人など |
必要書類は、開示申込書、亡くなったことが分かる書類、相続人であることが分かる戸籍、申込者の本人確認書類、手数料などです。法務局の「法定相続情報一覧図」の写しを使うと、戸籍の提出を省ける場合があります。
書類や手数料は機関ごとに異なり、改定されることもあるため、各機関のサイトで最新の案内を確認してください。
信用情報に載らない借金を探す
個人からの借金、家族・親戚からの借入れ、家賃や税金の滞納、事業の借入れや保証などは、信用情報に載らないことがあります。次のものも確認しましょう。
- 郵便物:請求書、督促状、カードの利用明細、契約更新の案内
- 通帳の履歴:毎月同じ日に同じ額が引き落とされていれば、ローンや分割払いの可能性
- スマートフォンやパソコン:ネット銀行、ローンアプリ、後払いサービスの利用履歴
- 不動産の登記事項証明書:実家に抵当権が設定されていないか
- 市区町村・年金事務所:固定資産税・住民税・国民健康保険料などの滞納
- 契約書類:金銭消費貸借契約書、保証契約書、賃貸借契約書
ステップ2 対応を選ぶ
調べた結果をもとに、相続放棄・限定承認・単純承認のどれにするかを選びます。
| 比べる項目 | 相続放棄 | 限定承認 | 単純承認 |
|---|---|---|---|
| 内容 | プラスもマイナスも一切引き継がない | 相続したプラスの財産の範囲内でだけ借金を返す | すべてを引き継ぐ |
| 手続き | 各相続人が単独で家庭裁判所に申述(収入印紙800円+郵便切手) | 相続人全員が共同で、財産目録を付けて家庭裁判所に申述 | 手続き不要 |
| 向いている状況 | 借金がプラスの財産より明らかに多い | どちらが多いか分からない。実家など残したい財産がある | プラスの財産が明らかに多い |
相続放棄の費用(収入印紙800円+郵便切手)は裁判所の案内によります[2]。
自分で申述するか、専門家に頼むかの目安は「相続放棄の手続き|自分で手続きするか、専門家に頼むか」で確認できます。法テラスや自治体の法律相談など、相談できる窓口は、このページの相談先にまとめています。
相続放棄
家庭裁判所に申述して受理されると、初めから相続人でなかったものとみなされ(民法939条)[1]、借金を払う必要はなくなります。その代わり、預貯金や実家などもすべて受け取れません。
一度受理されると撤回できません。手順は相続放棄の流れと必要書類をご覧ください。
限定承認
限定承認は、相続によって得た財産の限度でのみ借金などを返済する方法です(民法922条)[1]。借金が想定より多くても、相続した財産を超えて自分の財産から払う必要はありません。財産が残れば受け取れます。
一方で、次の点に注意が必要です。
- 相続人全員が共同で申述する必要がある(民法923条)。1人でも反対したり、すでに単純承認とみなされる行為をした人がいたりすると、使えません。
- 手続きが複雑:3か月以内に財産目録を作って申述し(民法924条)[3]、その後は債権者への公告・催告、財産の換価、弁済などの清算手続きが続きます。
- 税金がかかることがある:限定承認による相続では、亡くなった人が財産を時価で譲渡したものとみなされ(所得税法59条)[8]、含み益があれば亡くなった人の所得税として準確定申告が必要になることがあります。
限定承認を選ぶ場合は、弁護士に相談するのが現実的です。
判断が間に合わないとき
借金の調査に時間がかかり、3か月以内に判断できない場合は、家庭裁判所に期間の伸長を申し立てられます。申立ては本来の3か月の期間内に行い、費用は相続人1人につき収入印紙800円と郵便切手です[4]。
判断の前にしてはいけないこと
次の行為をすると、単純承認したものとみなされ、相続放棄や限定承認ができなくなるおそれがあります(民法921条)[1]。
- 親の預金を引き出して自分のために使う
- 親の借金を、親の預金や自分のお金で一部でも返す
- 実家・車・株式を売ったり、名義を変えたりする
- 高価な遺品を売る、持ち帰って使う
- 賃貸住宅の家財をすべて処分する
葬儀費用を相続財産から支払うことが処分に当たるかどうかは、判断が分かれる余地があります。できれば喪主などが立て替え、領収書を残しておくと安心です。
請求書や督促状が届いたときの対応手順
請求が届いても、その場で支払わず、次の順番で対応します。
支払わずに内容を確認する
差出人、請求の内容(借入金・利用代金・保証など)、金額、連絡先を控えます。差出人の会社名や連絡先が実在するかも確認します。
期限を確認する
自分が相続人になったことを知った日から3か月の期限が、いつまでかを確認します。
財産全体を調べる
請求以外の借金がないか、信用情報機関への開示請求などで調べ、プラスの財産と比べます。
対応を決めて伝える
相続放棄をする場合は、申述した後、受理通知書や受理証明書の写しを債権者に示します。判断中であれば、相続放棄を検討中であることを伝え、支払いはしません。
裁判所から書類が届いたら放置しない
支払督促や訴状が届いた場合、期限内に対応しないと請求が確定してしまうおそれがあります。すぐに弁護士に相談してください。
電話で強く支払いを求められても、その場で約束をしないことが大切です。やり取りは日時と内容を記録しておきましょう。誰に相談するか迷うときは、相談先の一覧から、状況に合う窓口を選んでください。
親が元気なうちにできること
借金の調査は、亡くなった後では手がかりが少なく、時間もかかります。親が元気なうちに、次のことを話しておくと、家族の負担を減らせます。
- 借入れやローンの有無:住宅ローン、カードローン、クレジットカードの分割払いなど
- 保証人になっていないか:親族や知人の借入れ、会社の借入れ、賃貸住宅の保証
- 口座と契約の一覧:金融機関、証券会社、保険会社、毎月の引き落とし
- 重要書類の保管場所:契約書、通帳、権利証、保険証券
お金の話は切り出しにくいものですが、「もしものときに手続きで困らないように」と目的を伝えると話しやすくなります。エンディングノートなどに書き残してもらう方法もあります。
連帯保証人になっていた場合
親が他人の借金や会社の借入れの連帯保証人になっていた場合、その保証債務も相続されます。
主な借主が返済を続けている間は保証人に連絡が来ないため、相続の時点では気づかず、何年も後に請求が届くこともあります。
保証を見つける手がかり
- 自宅や金庫に残された保証契約書・金銭消費貸借契約書の写し
- 親が会社を経営していた場合は、会社の借入れと代表者保証
- 親族や知人の借入れ、子どもや孫の賃貸住宅の保証人
後から保証債務が分かった場合
3か月の期限を過ぎてから保証債務を知った場合でも、相続財産がまったくないと信じたことに相当な理由があったなどの事情があれば、知った時から3か月以内の相続放棄が受理される余地があります。考え方は相続放棄の流れと必要書類で説明しています。
ただし、受理されるかは個別の判断です。請求が届いたら、支払う前に弁護士に相談してください。
3か月を過ぎた・すでに承認した場合
相続を承認した後は、借金は相続人自身の債務として返済することになります。
返済が難しい場合は、債務整理(任意整理・個人再生・自己破産)を検討することになります。どの方法が合うかは、借金の額や収入、守りたい財産によって変わるため、弁護士や司法書士に相談してください。
なお、司法書士が代理人として交渉や訴訟を行える範囲には、法律で上限があります。借金の額が大きい場合や、自己破産・個人再生を検討する場合は、弁護士への相談が向いています。
相談先
相続放棄や限定承認の相談は、次の公的な窓口から始められます(広告ではありません。リンク先は各機関の公式サイトです)。
| 相談先 | 内容 | 公式サイト |
|---|---|---|
| 法テラス(日本司法支援センター) | 収入などの要件を満たせば、無料法律相談や弁護士費用の立替えを利用できる場合があります | 無料法律相談・弁護士等費用の立替 |
| 弁護士会の法律相談センター | 有料・無料の法律相談を設けている会があります | 全国の弁護士会の法律相談センター(日本弁護士連合会) |
| 司法書士会の相談窓口 | 各地の司法書士総合相談センターなど | 各種法律相談(日本司法書士会連合会) |
| 市区町村の無料法律相談 | 日程や予約方法は自治体ごとに異なります | お住まいの市区町村のサイト |
| 家庭裁判所の家事手続案内 | 相続放棄・限定承認・期間の伸長の手続きの案内(判断の相談はできません) | 家事事件(裁判所)・各地の裁判所 |
違法な業者(ヤミ金)からの請求や、脅すような取り立てを受けた場合は、1人で対応せず、警察や弁護士に相談してください。
相談に行くときは、届いた請求書や督促状、信用情報の開示結果、亡くなった人の通帳、戸籍など、手元にある資料を持参すると、話が早く進みます。相続の開始を知った日と、3か月の期限がいつかも伝えましょう。
次に決めること:実家と家財をどうするか
借金への対応は、実家や家財をどうするかと一緒に決めることになります。
- 相続放棄をする場合:預貯金と同じく、実家や家財も受け取れません(民法939条)[1]。判断の前に実家を売ったり家財を処分したりすると、放棄できなくなるおそれがあります(民法921条)。
- 相続する場合(単純承認):実家は相続人のものになり、借金も引き継ぎます。住み続ける、売って返済にあてるなどを決めていきます。登記事項証明書で、実家に抵当権が付いていないかも確かめてください。
放棄するか迷うときは、実家を売るとしたらどう進むのかを先に見ておくと判断しやすくなります。
- 相続して売る場合の全体像:相続した実家の売却の流れ
- 古い家・遠方の家で買い手がつくか不安な場合:空き家の買取と仲介の違い
- 3か月の期限日を確かめる:相続の期限カレンダー



