親が亡くなった後に借金が見つかった、親と疎遠で財産の状況がまったく分からない。そのようなときに検討するのが相続放棄です。
相続放棄には3か月という期限があり、手続きの順番を誤ると放棄できなくなることもあります。
このページでは、相続放棄の流れを7つのステップに分けて説明し、3か月の期限の数え方、期限を延ばす方法、期限を過ぎてしまった場合の考え方、放棄できなくなる行為を、民法と裁判所の案内にもとづいて整理します。個別の事情によって判断が変わるため、迷ったときは弁護士や司法書士、法テラスに相談してください。
相続放棄とは:3つの選択肢
相続が始まると、相続人は「単純承認」「限定承認」「相続放棄」の3つから選ぶことになります。
| 比べる項目 | 単純承認 | 限定承認 | 相続放棄 |
|---|---|---|---|
| 引き継ぐもの | プラスの財産と借金などマイナスの財産のすべて | プラスの財産の範囲内でだけ借金を返す | 何も引き継がない |
| 手続き | 手続き不要。3か月以内に放棄も限定承認もしなければ単純承認とみなされる | 相続人全員が共同で、3か月以内に家庭裁判所へ申述 | 各相続人が単独で、3か月以内に家庭裁判所へ申述 |
相続放棄をすると、その相続について「初めから相続人とならなかったもの」とみなされます(民法939条)[6]。借金を引き継がなくてよくなる代わりに、預貯金や実家などのプラスの財産も受け取れません。
限定承認は相続人全員が共同でしなければならず(民法923条)[6]、財産目録の作成や債権者への公告など、手続きが複雑です[3]。借金とプラスの財産のどちらが多いか分からないときの選択肢ですが、利用する場合は専門家に相談してください。
3か月の期限はいつから数えるか
民法915条は、相続人は「自己のために相続の開始があったことを知った時から三箇月以内」に、承認か放棄をしなければならないと定めています[6]。数え始めるのは、亡くなった日ではなく、自分が相続人になったことを知った日です。
- 同居していた子は、通常は亡くなった日に知るため、その日から数えます。
- 疎遠だった親族が後から亡くなったことを知った場合は、知った日から数えます。
- 先の順位の相続人(子など)が全員相続放棄をしたことで自分が相続人になった場合は、そのことを知った日から数えます。
相続放棄の期限
起点
自分が相続人になったことを知った日
3か月以内
相続放棄・限定承認の申述(間に合わないときは期間の伸長を申し立てる)[6]
民法 第915条
3か月を過ぎると
放棄も限定承認もしなければ、単純承認したものとみなされる[6]
民法 第921条2号
期限の日付は、亡くなった日を入れると確認できます。
うちの期限を計算する相続放棄の流れ(7ステップ)
財産の調査から受理証明書の取得まで、次の7ステップで進めます。各ステップの注意点は、この後で説明します。
財産と借金を調べる
預貯金・不動産・借金・保証債務などを洗い出します。
放棄するかを決める
受け取れなくなるもの、次の順位の人に相続権が移ることも考えて判断します。
必要書類をそろえる
家庭裁判所に申述する
窓口に持参するほか、郵送でも提出できます。
照会書に回答する
申述書と食い違いがないよう、事実に沿って回答します。
受理通知書を受け取る
これで相続放棄は成立します。通知書は大切に保管します。
必要に応じて受理証明書を取る
債権者や金融機関、登記の手続きで証明が必要な場合に申請します。
3か月を過ぎている、債権者から請求が届いているといった場合は、自分で進める前に自分で手続きするか、専門家に頼むかの目安を先に確認してください。
ステップ1 財産と借金を調べる
放棄するかどうかを判断するため、まず財産と借金を洗い出します。
| 調べるもの | 主な調べ方 |
|---|---|
| 預貯金 | 通帳やキャッシュカードを集め、金融機関に残高証明書を請求する |
| 不動産 | 固定資産税の納税通知書、市区町村の名寄帳、法務局の登記事項証明書 |
| 株式・投資信託 | 証券会社からの郵便物や取引報告書 |
| 借金・ローン | 督促状や契約書、信用情報機関への開示請求 |
| 保証債務 | 契約書類、金融機関からの通知(見落としやすいので注意) |
| 税金・公共料金の滞納 | 市区町村や事業者への確認 |
借金の調べ方は親が借金を残して亡くなったときの対処法で詳しく説明しています。
民法915条2項により、相続人は承認や放棄をする前に財産を調べることができます[6]。ただし、調べる過程で財産を処分しないよう注意してください(後述)。
ステップ2 放棄するかを決める
調査の結果をもとに、放棄するかどうかを判断します。判断のときは、次の点も考えておきましょう。
- 受け取れなくなるもの:預貯金・不動産・株式など、プラスの財産すべて。
- 放棄しても受け取れることがあるもの:受取人が指定された生命保険金、遺族年金などは、受取人や遺族自身の権利とされ、相続放棄をしても受け取れることがあります。
- 次の順位の人に相続権が移ること:子が全員放棄すると、親の父母、さらに兄弟姉妹へと相続権が移ります。
生命保険金は、相続税の計算では「みなし相続財産」として課税対象になります。相続放棄をした人には、生命保険金の非課税枠(500万円×法定相続人の数)が適用されません[7]。
ステップ3 必要書類をそろえる
裁判所の案内によると、相続放棄の申述には次のものが必要です[1]。
共通して必要なもの- 相続放棄の申述書(裁判所のウェブサイトに書式があります)
- 亡くなった人の住民票除票または戸籍附票
- 申述する人の戸籍謄本
- 収入印紙800円分(申述人1人につき)
- 連絡用の郵便切手(額は申し立てる家庭裁判所に確認)
| 申述する人 | 追加で必要な主な戸籍 |
|---|---|
| 配偶者 | 亡くなった人の死亡の記載のある戸籍謄本 |
| 子 | 亡くなった人の死亡の記載のある戸籍謄本 |
| 孫(代襲相続人) | 上記に加え、亡くなった子(孫の親)の死亡の記載のある戸籍謄本 |
| 父母・祖父母 | 亡くなった人の出生から死亡までのすべての戸籍謄本など |
| 兄弟姉妹・甥姪 | 亡くなった人の出生から死亡までのすべての戸籍謄本、父母など直系尊属の死亡の記載のある戸籍謄本など |
同じ家庭裁判所に先に申述した人がいて、その書類と重なるものは省略できる場合があります。詳しくは申し立てる家庭裁判所に確認してください。
ステップ4 家庭裁判所に申述する
申述先は、亡くなった人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所です[1]。申述する人の住所地ではない点に注意してください。
窓口に持参するほか、郵送でも提出できます。郵送の場合は、追跡できる方法で送り、提出した書類の控えを手元に残しておきましょう。
申述書の「相続の開始を知った日」には、亡くなった日ではなく、自分が相続人になったことを知った日を書きます。3か月を過ぎてから申述する場合は、その事情を具体的に書く必要があります。
ステップ5 照会書に回答する
申述の後、家庭裁判所から申述の意思や事情を確認するための照会書(回答書)が届くことがあります。内容は、本人の意思による申述か、相続の開始を知った日はいつか、遺産を処分していないか、などです。
申述書と食い違いがないよう、事実に沿って回答し、期限までに返送します。
ステップ6 受理通知書を受け取る
申述が受理されると、家庭裁判所から相続放棄申述受理通知書が届きます。これで相続放棄は成立します。通知書は大切に保管し、コピーを取っておきましょう。
ステップ7 必要に応じて受理証明書を取る
債権者や金融機関、登記の手続きで相続放棄を証明する必要がある場合は、受理した家庭裁判所に相続放棄申述受理証明書を申請します。
家庭裁判所の案内によると、手数料は証明書1通につき収入印紙150円で、郵送で申請する場合は返信用の切手が必要です[4]。
債権者から請求が届いた場合は、受理通知書や受理証明書の写しを示して、相続放棄したことを伝えます。
期限に間に合わないとき:期間の伸長
財産の調査に時間がかかり、3か月以内に判断できない場合は、家庭裁判所に「相続の承認又は放棄の期間の伸長」を申し立てられます(民法915条1項ただし書)[6]。
- 申立ての期限:本来の3か月の期間内に申し立てます。
- 申立先:亡くなった人の最後の住所地の家庭裁判所
- 費用:相続人1人につき収入印紙800円と郵便切手[2]
- 伸ばせる期間:家庭裁判所が事情を見て判断します
調査が終わらないまま期限が近づいたら、まず伸長の申立てをしておくのが安全です。
3か月を過ぎてしまったとき
原則として、3か月以内に放棄も限定承認もしなければ、単純承認したものとみなされます(民法921条2号)[6]。
ただし、最高裁判所は昭和59年4月27日の判決で、例外を認めています[5]。相続人が3か月以内に放棄しなかったのが、相続財産がまったく存在しないと信じたためであり、そう信じたことに相当な理由がある場合です。このときは、期間は相続財産の全部または一部の存在を認識した時(または通常認識できた時)から数えるべきだと判断しています。
たとえば、親と長年交流がなく、財産も借金もないと信じていたところ、債権者からの通知で初めて借金を知った、というような場合です。
相続放棄ができなくなる行為
民法921条は、次の場合に単純承認をしたものとみなすと定めています[6]。
- 相続財産の全部または一部を処分したとき(保存行為や短期の賃貸を除く)
- 3か月以内に限定承認も放棄もしなかったとき
- 放棄や限定承認をした後でも、相続財産を隠したり、ひそかに使ったり、悪意で財産目録に書かなかったりしたとき
具体的には、次のような行為に注意が必要です。
- 亡くなった人の預金を引き出して、自分のために使う
- 実家や車、株式を売ったり、名義を変えたりする
- 高価な遺品を持ち帰って使う、売る
- 亡くなった人の借金を、亡くなった人の預金から返す
葬儀費用を相続財産から支払うことが処分に当たるかどうかは、金額や状況によって判断が分かれる可能性があります。できれば葬儀費用は喪主などが立て替え、領収書を保管しておくと安心です。
放棄した後に気をつけること
次の順位の相続人に知らせる
子が全員放棄すると亡くなった人の父母や祖父母に、その人たちもいない、または放棄すると兄弟姉妹に、相続権が移ります。新しく相続人になった人にも、知った時から3か月の期限が始まります。
知らないうちに債権者から請求が届くことのないよう、次の順位の親族には早めに連絡しましょう。
子が相続放棄をしても、その子ども(孫)が代わりに相続する代襲相続は起きません。民法887条が定める代襲の原因(相続開始以前の死亡、欠格、廃除)に、相続放棄は含まれていないためです[6]。誰が次の相続人になるかは法定相続人の範囲と相続分で確認できます。
手元にある財産の保存
2023年4月1日施行の改正民法940条により、放棄した時に相続財産を現に占有している人は、ほかの相続人や相続財産清算人に引き渡すまでの間、自分の財産と同じ注意をもって保存しなければなりません[6]。
たとえば親の家に住んでいた子が放棄した場合などです。空き家の管理に困る場合は、弁護士に相談してください。
自分で手続きする場合の実費
自分で申述する場合にかかるのは、収入印紙・郵便切手・戸籍などの実費です。
申述の収入印紙 + 郵便切手 + 戸籍謄本・除籍謄本・住民票除票など + 期間の伸長の申立て + 受理証明書 = 総額
申述の収入印紙[1]
申述人1人につき800円
申述書に貼る
郵便切手[1]
家庭裁判所ごとに異なる
申述先の裁判所のサイトで確認する
戸籍謄本・除籍謄本・住民票除票など
市区町村の手数料
必要な通数は申述人の立場で変わる
期間の伸長の申立て(必要な場合)[2]
相続人1人につき800円+郵便切手
受理証明書(必要な場合)[4]
1通につき150円
郵送申請は返信用切手が必要
総額
収入印紙800円+郵便切手+戸籍などの手数料
※郵便切手の額と戸籍の通数は、申し立てる家庭裁判所と申述人の立場によって変わります。
兄弟姉妹が相続人になる場合などは、亡くなった人の出生から死亡までの戸籍に加えて、父母の戸籍なども必要になり、通数が増えます。戸籍の取り寄せには日数がかかるため、早めに請求しましょう。
自分で手続きするか、専門家に頼むか
状況によって、自分で申述するか、専門家に相談するかの目安が変わります。
| 状況 | 目安 |
|---|---|
| 3か月以内で、財産と借金の状況がはっきりしている | 裁判所の書式を使って自分で申述しやすい |
| 戸籍の収集が多い(兄弟姉妹が相続人など) | 書類作成を司法書士に依頼する方法もある |
| 3か月を過ぎている | 弁護士への相談をおすすめします |
| 債権者から請求や訴えが届いている | 弁護士への相談をおすすめします |
| 限定承認を検討している | 弁護士への相談をおすすめします |
専門家の費用は事務所ごとに異なります。依頼する前に見積もりを確認してください。戸籍の収集や申述書の作成を任せたい場合は、司法書士に依頼する方法もあります。対応できる内容や費用は、事務所ごとに確認してください。
相続放棄を相談できる公的な窓口
相談先を探すときは、次の公的な窓口から始められます(広告ではありません。リンク先は各機関の公式サイトです)。
| 窓口 | 内容 | 公式サイト |
|---|---|---|
| 法テラス(日本司法支援センター) | 収入や資産が一定の基準以下などの条件を満たすと、弁護士・司法書士の無料法律相談や費用の立替えを利用できる場合があります | 無料法律相談・弁護士等費用の立替 |
| 弁護士会の法律相談センター | 各地の弁護士会が設けている法律相談。料金や予約の方法は弁護士会ごとに異なります | 全国の弁護士会の法律相談センター(日本弁護士連合会) |
| 司法書士会の相談窓口 | 各地の司法書士総合相談センターなど。書類の作成を頼みたいときの相談先です | 各種法律相談(日本司法書士会連合会) |
| 家庭裁判所の家事手続案内 | 申述の手続きや必要書類の案内。放棄すべきかどうかといった判断の相談はできません | 家事事件(裁判所)・各地の裁判所 |
次に決めること:実家と家財をどうするか
相続放棄をするかどうかは、実家や家財をどうするかと一緒に決めることになります。
- 放棄する場合:実家や家財も受け取れません(民法939条)[6]。申述の前後に実家を売ったり、家財を処分したりすると、相続を承認したとみなされることがあります(民法921条)。放棄した時に実家を現に占有している人は、引き渡すまで保存する義務があります(民法940条)。
- 放棄しない(相続する)場合:実家は相続人のものになり、住む・売る・貸すなどを決めていきます。売る場合は、先に相続登記が必要です。
どちらにするか迷うときは、3か月の期限日を確かめたうえで、実家を売るとしたらどう進むのかを先に見ておくと判断しやすくなります。
- 期限日を確かめる:相続の期限カレンダー
- 相続して売る場合の全体像:相続した実家の売却の流れ
- 古い家・遠方の家で買い手がつくか不安な場合:空き家の買取と仲介の違い
- 相続登記にかかる費用:相続登記の費用



