成年後見人の費用完全ガイド|申立費用・月額報酬・家族信託との比較

親が認知症になりかけ、銀行の窓口で「ご本人でないと出金できません」と言われたあの瞬間、はじめて成年後見制度の存在を知る家族は少なくありません。私たち親子ナビ編集部にも、80代の祖母の定期預金が凍結され、慌てて司法書士事務所を巡った経験を持つメンバーがいます。本記事では申立てにかかる費用、月々の専門職への報酬、そして家族信託・任意後見との比較まで、家族の視点で整理しました。私たちは法律・司法書士の専門家ではありません。具体的な申立ては家庭裁判所の手続案内・最寄りの司法書士・法テラスにご相談ください。

成年後見人の費用相場(申立費用と月額報酬)

成年後見制度の費用は「① 申立て時の一回限りの費用」「② 後見開始後に毎月発生する費用」の2階建てです。一般的に「成年後見は高い」と言われるのは、後者の月額報酬が一生涯(本人が亡くなるまで)発生し続けるからです。最高裁判所事務総局「成年後見関係事件の概況(令和4年1月〜12月)」によれば、申立件数は年間約4万件、後見人は弁護士・司法書士・社会福祉士などの専門職が約8割を占めています。

① 申立て時の費用(一回のみ)

家庭裁判所への申立てに必要な実費の内訳
費目 金額の目安 補足
申立手数料(収入印紙) 800円 後見・保佐・補助で同額
登記手数料(収入印紙) 2,600円 東京法務局へ後見登記
郵便切手(予納郵券) 3,000〜5,000円 家裁により異なる
診断書料 3,000〜10,000円 主治医に依頼
住民票・戸籍謄本など 2,000〜5,000円 本籍地から取得
鑑定費用(必要時のみ) 50,000〜100,000円 判断能力が微妙な場合に裁判所が命じる。実際に鑑定が行われるのは全体の約5%(最高裁データ)
司法書士・弁護士に申立て代行を依頼した場合の報酬 100,000〜250,000円 自分で申立てれば不要

家族が自分で書類を揃えて申立てる場合、実費だけなら1万〜2万円で済みます。専門家に申立て代行を依頼すると合計で15〜30万円が目安です。書類作成が複雑なため(申立書だけで10種類超)、不安な家族は司法書士への代行依頼が現実的な選択肢になります。

② 後見開始後の月額報酬(毎月発生)

専門職後見人(弁護士・司法書士など)が選任された場合、家庭裁判所が本人の財産額に応じて「報酬付与の審判」で月額報酬を決定します。東京家庭裁判所が公表している「成年後見人等の報酬額のめやす」を基準に、実例ベースでまとめると次の通りです。

本人の管理財産額別 月額報酬の目安(専門職後見人の場合)
管理財産額 月額報酬の目安 年額換算 10年累計
1,000万円以下 20,000円 240,000円 約240万円
1,000万円超〜5,000万円 30,000〜40,000円 360,000〜480,000円 約360〜480万円
5,000万円超 50,000〜60,000円 600,000〜720,000円 約600〜720万円

たとえば本人が80歳で財産2,000万円のケースでは、月額3万円 × 平均余命11年 = 累計約400万円の専門職報酬が一生涯発生する計算になります。さらに、不動産売却・遺産分割協議・訴訟対応など特別な業務があった場合は「付加報酬」として数十万〜100万円超が加算されます。「気軽に始めて、合わなかったら辞める」ということは原則できない制度設計である点に注意が必要です。

申立てから後見開始までの実際の流れ

「申立てればすぐ親の口座を動かせる」と誤解されがちですが、実際には申立てから後見開始(審判確定)まで平均3〜4ヶ月かかります。最高裁の統計でも、令和4年の終局事件のうち「2ヶ月以内」が約7割、「4ヶ月超」が約1割と公表されています。

申立てから後見開始までの4ステップ(目安期間)
Step 1
準備
2〜4週間
主治医に診断書を依頼
戸籍・財産目録を収集
申立書を作成
Step 2
申立
1日
本人住所地の家庭裁判所へ
書類一式を提出
収入印紙・郵券を納付
Step 3
調査・面接
1〜2ヶ月
家裁調査官が本人・申立人と面接
必要に応じ医師の鑑定
親族への意向照会
Step 4
審判・確定
2〜4週間
家裁が後見人を選任
不服申立期間2週間後に確定
後見登記完了で口座対応可能

この間、親の口座は引き続き凍結されたままです。介護施設の入所費用や入院費の支払いが急ぎで必要な場合、家族が立て替えるか、銀行の「預金者の意思確認ができない場合の払戻し制度」(全国銀行協会の指針、上限あり・各行裁量)を使うしかありません。「困ってから申立てる」のでは間に合わないのが、この制度の最大のジレンマです。

親族後見人 vs 専門職後見人 どちらが安い?

「親族(子・配偶者・兄弟)が後見人になれば月額報酬は不要」と思われがちですが、実際は希望通りに親族が選ばれるとは限りません。最高裁「成年後見関係事件の概況(令和4年)」によれば、後見人に選任された人のうち親族は約19.1%、専門職等(弁護士・司法書士・社会福祉士・市民後見人・法人後見など)は約80.9%。家裁は「財産額が多い」「親族間に紛争がある」「不動産売却が見込まれる」場合は専門職を選びやすい傾向があります。

項目 親族後見人 専門職後見人(弁護士・司法書士等)
月額報酬 原則ゼロ(本人申立てで報酬請求も可能だが少数) 2〜6万円/月(財産額に応じる)
選任されやすさ 財産1,000万円以下・紛争なしの場合は選ばれやすい 財産多額・紛争あり・不動産処分予定の場合に選ばれやすい
家裁監督人の選任 監督人(専門職)が付くケースが多く、月1〜2万円の監督人報酬が発生 原則不要
家族の負担 毎年の財産報告・収支報告書作成の負担大 専門家に任せられるので負担小
横領リスク 残念ながら親族横領は年間数百件の報告あり(最高裁データ) 職業上の倫理規定・賠償保険でカバー

結論として「絶対に親族の方が安い」とは言い切れません。親族後見人になっても多くの場合は専門職の監督人が付き、結局月1〜2万円の監督人報酬が発生します。さらに毎年の家裁への報告書作成は実務的にかなりの負担です。「専門職に任せる代わりに月3万円払う」という割り切りも、家族の状況次第では合理的な選択肢になります。

家族信託 vs 任意後見 vs 法定後見 3者比較

認知症対策には成年後見制度(法定後見・任意後見)以外に「家族信託(民事信託)」という選択肢があります。それぞれ「いつ始めるか」「誰が決めるか」「何ができるか」で大きく異なります。法務省「成年後見制度の利用促進に関する施策」でも、本人意思尊重の観点から任意後見・家族信託など多様な選択肢の活用が推奨されています。

比較軸 家族信託 任意後見 法定後見
開始のタイミング 判断能力があるうちに契約 判断能力があるうちに契約 → 能力低下後に発効 判断能力低下後に家裁が選任
誰が管理する人を決めるか 本人が契約で指定 本人が契約で指定 家庭裁判所が決定
不動産の積極運用・売却 ○ 信託契約の範囲で柔軟 △ 任意後見監督人の同意が必要 × 居住用不動産売却は家裁許可必須
初期費用 30〜100万円(契約書作成・登記) 15〜30万円(公正証書作成等) 1〜30万円(自分で申立てか代行か)
月額の継続費用 原則ゼロ(信託監督人を付ける場合のみ発生) 監督人報酬1〜3万円/月 後見人報酬2〜6万円/月
身上監護(介護契約等) × 財産管理のみ ○ 契約で定めた範囲 ○ 全般的に対応
家裁の関与 原則なし(柔軟だが第三者監督が弱い) 監督人を通じて間接的 強い(全て報告義務)

選び分けのポイント: 「親がまだ元気で、実家を将来売却する可能性がある」なら家族信託が最も柔軟です。「親はまだ元気だが、将来の身上監護まで含めて誰かに任せたい」なら任意後見。「すでに認知症が進行していて、銀行口座が凍結された」なら法定後見しか選択肢がありません。判断能力が低下した後では、家族信託も任意後見も契約できません。「親が元気なうちにどれを準備しておくか」が、家族の将来負担を大きく左右します。

後見人選任後に家族にのしかかる負担

後見人が選任されたら終わり、ではありません。むしろそこからが家族にとっての本番です。厚生労働省「成年後見制度利用促進基本計画」でも、利用者・家族の負担感が継続的な課題として挙げられています。

毎年の財産目録・収支報告書の提出

親族後見人の場合、毎年(または家裁の指定する周期で)財産目録・収支報告書・通帳コピー一式を家庭裁判所に提出する必要があります。1円単位の収支記録、領収書の保管、預金残高証明書の取得など、実務的にはサラリーマンの確定申告の数倍の作業量になることも珍しくありません。

本人のお金は本人のためにしか使えない

たとえ親の介護で家族が交通費・宿泊費を負担しても、原則として親の財産から精算することはできません。お孫さんの入学祝いを親の貯金から出す、家族旅行に親の口座から資金を出す、といった行為も「本人のためでない支出」として認められないのが原則です。「親の財産は親のもの、家族の生活費とは完全に切り離す」という運用に、家族側のフラストレーションが溜まりやすい構造になっています。

後見人を簡単には変えられない・辞められない

「選任された専門職後見人と相性が合わない」「報酬負担が想定より重い」と感じても、解任・辞任には家裁の許可が必要で、原則として本人の死亡まで継続します。これが冒頭で触れた「気軽に始められない制度」たる所以です。だからこそ、申立て前に家族でじっくり制度比較をしておく価値があります。

よくある質問

兄弟で意見が割れて揉めています。誰が申立てればいい?

申立人は本人・配偶者・四親等以内の親族・市区町村長など、法律で定められた人なら誰でも可能で、兄弟全員の同意は不要です。ただし申立書には他の親族の意向欄があり、家裁から親族へ意向照会の書面が送付されます。「兄は親族後見を希望、妹は専門職を希望」のような対立があると、家裁が中立的に専門職を選任する傾向が強まります。揉めている時点で、第三者である専門職後見人を入れる方が結果的に家族関係を守ることもあります。

田舎に住む親のために、都会の家族が後見人になれる?

地理的に離れていても親族後見人になることは可能です。ただし本人の住所地の家庭裁判所への申立て・報告が必要で、年に数回の往復、施設・銀行・役所対応で家族側の時間と交通費の負担が大きくなります。地元の司法書士・社会福祉士を後見人として選任してもらい、家族はサポートに回るという選択も現実的です。

兄弟で「共同後見人」になることはできますか?

はい、複数人を共同後見人として選任することは可能です。家裁の判断で「権限分掌型」(例: 兄が財産管理、妹が身上監護)や「共同行使型」(全ての行為に全員の同意必要)を指定できます。ただし共同行使型は実務的に意思決定が遅くなり、親族間で意見が割れた場合に動けなくなるリスクもあります。

本人の財産が少なくても申立て費用は同じ?

申立て費用(収入印紙・郵券・診断書代)は財産額に関係なく一定です。ただし本人の収入・財産が一定基準以下の場合、法テラスの民事法律扶助を利用して申立て代行費用の立替・減免を受けられる可能性があります。さらに専門職後見人選任後の月額報酬についても、市区町村が低所得者向けに「成年後見制度利用支援事業」で報酬を助成する制度があるので、申立て前に本人住所地の地域包括支援センターへ相談しておくと安心です。

銀行口座が凍結される前に、急いで親のお金を引き出してもいい?

これは多くの家族が悩む問題です。本人が自分の意思で家族に通帳・暗証番号を渡している段階なら、生活費目的の引き出しは「事務管理」として説明可能なケースもあります。ただし大金の移動・親名義口座から家族口座への振込は、後日相続時に他の相続人から「使い込み」と指摘されるリスクがあります。家族間で揉める可能性がある場合は、引き出しの都度メモ・領収書を保管し、可能なら早めに専門家へ相談してください。

編集部から最後にひとこと

成年後見制度は「親の財産を守るためのセーフティネット」であると同時に、「いったん始めると簡単に止められない長期コミットメント」でもあります。私たち親子ナビ編集部は法律・司法書士の専門家ではないため、具体的な申立てや個別ケースの判断は、必ず家庭裁判所の手続案内・最寄りの司法書士・法テラス・地域包括支援センターにご相談ください。「親が元気な今、家族信託や任意後見を検討する」「すでに判断能力が低下している場合は法定後見と並行して市区町村の支援事業を確認する」など、ご家族の状況に合わせた一歩を踏み出すきっかけになれば幸いです。